新型ウイルス感染癥のために延期された2021年夏季ワールドユニバーシティゲームズが、四川省成都市で7月23日から8月8日まで開催された（成都ユニバ）。この大會では中國の武術(shù)（ウーシュー）が実施競技に採用された。日本では「武術(shù)太極拳」の名で紹介されたが、実際には太極拳だけでなく幅広い分野が取り入れられた。中國メディアの中國新聞社は成都ユニバで武術(shù)が採用されたことをきっかけに、中國武術(shù)の普及を研究する馬秀傑博士、太極拳などで國家級コーチを務(wù)める喻波氏、中國式キックボクシングとも呼ばれる散打（サンダー）の國家級コーチの王祥権氏に、中國武術(shù)についてさまざまな質(zhì)問をぶつけた。以下は記者の質(zhì)問と前記3氏による回答の要約だ。

●武術(shù)とは何なのか。いつ始まり、どのような変遷をたどったのか？

馬：中華武術(shù)は、中華民族の祖先が生存を賭けて獣と格闘する狩猟の技として発生した。戦國時代までには、儀式の際に「武舞」という演目が取り入れられていた。これは、武術(shù)のパターン化の初期の萌芽（ほうが）だ。

「武術(shù)」という言葉はまだ使われていなかったが、「射と御」、「舞象」、「隆技撃」などの個別の技があり、実質(zhì)的には武術(shù)が誕生していた。正史としての「三國志」を編纂した陳壽は、その「劉封伝」の中で初めて「武蕓」という言葉を使った。この「武蕓」は剣術(shù)や弓術(shù)、格闘技などを含んでいた。「武術(shù)」という呼稱が使われたのは南北朝時代で、南朝の梁の昭明太子による「文選」に「武術(shù)」という言葉が登場する。この場合の「武術(shù)」は主に、実際の戦爭における戦いの技術(shù)を指す。

その後、「武術(shù)」は文獻にはあまり出てこなくなり、宋代から元代にかけては「十八般武蕓」という言葉が登場した。この「武蕓」は主に武具を用いるもので、この時代に武具の種類が豊富になっていたことを物語る?！肝湫g(shù)」の呼稱は1912年に成立した中華民國の初期に復(fù)活して、その後定著したものだ。

20世紀初頭には西洋からスポーツという概念が中國に伝わり、「武術(shù)」はスポーツとして認知されるようになった。つまり、武術(shù)がもつ人體の運働の技術(shù)的な面に注目して、武術(shù)をスポーツの一種と考えたわけだ。ただし一部の専門家は、武術(shù)の「攻撃と防御」の側(cè)面を語らないことは武術(shù)を否定することであり、武術(shù)は根本的な屬性を失うと主張した。

中國武術(shù)協(xié)會の元主席である徐才氏は、「武術(shù)は哲學(xué)、倫理學(xué)、美學(xué)、醫(yī)學(xué)などの多岐に渡る內(nèi)容が含まれている。この點でアジアの伝統(tǒng)的スポーツ競技や西洋のスポーツとは大きく異なる」と指摘した。

●成都ユニバでは、武術(shù)の競技で20個の金メダルが生まれた。どのような特徴があったのか？

喩：成都ユニバの武術(shù)競技では南拳、長拳、太極拳など中國の主要武術(shù)が取り上げられた。うち男子南拳、女子南刀は同じ南拳の系列だ。南拳系列の最大の特徴は、足取りがしっかりしていて、剛猛で力強く、動きが迅速で緊張していることだ。南拳では「気合の聲」を出す。聲で「気」を発生させ、「気」を力に転じる方法だ。

長拳系列の武術(shù)には拳術(shù)、刀術(shù)、剣術(shù)、槍術(shù)などがある。最大の特徴は伸びやかさや奔放で、スマートさでひょうひょうとしている。太極拳系列は中國內(nèi)外の人々が最もよく知る中國武術(shù)で、柔らかくて伸びやかで、平穏で一貫していて、自由闊達（かったつ）という特徴がある。太極拳に初めて觸れる人は、軽くてしなやかな動きなので、まるで踴っているかのように感じるかもしれない。しかし太極拳は決してダンスではなく、拳理の一種の至高の境地だ。私の師匠はよく「太極拳では身を靜かに処して脫力する。下半身は足を地に根付かる。攻守は心中にとどめて外には出さない。靜なること病の貓のごとし、動なること虎のごとし」と言っていた。

王：散打は中國古代武術(shù)の素手で戦うさまざまな格闘形式から発展してきたものだ。蹴る、打つ、投げるなどの攻めがあり、守りの技術(shù)も伴う。また、現(xiàn)代スポーツの種目としても成立させられる。

他の武術(shù)と比べて、散打は近現(xiàn)代的種目としては出遅れた。中國國內(nèi)で試験種目として採用されたのは1979年3月で、1989年の「武術(shù)散手の試合管理を強化することに関する通知」によって試合規(guī)則などが整備され始めた。その後、正式な全國大會が開催され、試合規(guī)則も確定された。

●中國発の武術(shù)はどのように世界に進出してきたのか？

馬：中國の武術(shù)は古い時代から日本や朝鮮、東南アジアに伝わった。具體的に言えば、早くも漢代に、中國文化はさまざまな方式で日本に伝わった。中華武術(shù)も日本に伝わり深い影響を與えた。明人の陳元は戦亂を避けるために日本に渡り、中國武術(shù)を日本の武士に伝授した。日本の武士は、陳元に鍛えてもらった拳法を改革し、最終的に柔道を創(chuàng)始した。日本の空手の起源も、中國の影響を強く受けた琉球空手道が基礎(chǔ)になって日本全國に広まったものだ。

現(xiàn)代における中國武術(shù)の伝播については、映畫やテレビの影響も大きい。特にブルース?リーが巻き起こした世界的な「カンフーブーム」だ。そして2022年にはフランス、ハイチ、サウジの3國武術(shù)協(xié)會が正式に國際武術(shù)連盟に加盟したことで、國際武術(shù)連盟の會員協(xié)會の數(shù)は158に達した。

●中國武術(shù)には國による違いがあるか？ 五輪競技に採用されるのはいつごろか？

馬：東西の武術(shù)に対する定義は現(xiàn)在のところ同じではない。武術(shù)は西洋に伝わった後に「翻訳」されたので、東西で異なる中國の武術(shù)文化の認識が生まれた。

1970年代には、主にブルース?リーの個人的な魅力とカンフー映畫のヒットにより、英語の辭書にKungfu（カンフー）という単語が追加された。しかし正確に言えば、この「カンフー」は主にブルース?リーに代表される流派の武術(shù)を指す。また、中國の太極拳は海外での影響が大きくなった。調(diào)査してみたところ、西洋では多くの人が太極拳を一つの武術(shù)に分類し、殘りの武術(shù)はすべて「中國の伝統(tǒng)武術(shù)」と見なしていることが分かった。

中華武術(shù)には100種類以上の種類があり、國や地域によって民衆(zhòng)が學(xué)ぶ武術(shù)の種類も異なる。先進國の大部分で學(xué)習者が最も多い中國武術(shù)は太極拳だが、ドイツでは詠春拳を?qū)Wぶ人が多い。詠春拳葉問派の宗師である葉問の高弟の梁挺がドイツに渡って普及に努めたからだ。タイやマレーシアでは散打の中國南部の流派を?qū)Wぶ人が多い?，F(xiàn)地の華僑や華人の多くが中國南部出身であるためだ。

中國武術(shù)は中國で生まれたが、世界のものだ。外國にも、中國武術(shù)を普及させようと努力している人がいる。世界の主要なスポーツ大會が、中國武術(shù)を何らかの形で受け入れることも増えている。私自身、中華の優(yōu)れた伝統(tǒng)文化である武術(shù)を世界に広めたいと願っている。

ただし、武術(shù)が五輪の正式種目に採用されるまでの道のりは長い。國際五輪委員會（IOC）が五輪大會の「スリム化」を進めているからだ。1種目が採用されれば、他の1種目が「退場」させられることになる。

また、中國武術(shù)を五輪に進出させるためには、どのような形式にするかを考えねばならない。2008年の夏季五輪大會時に模索した結(jié)果では、武術(shù)の型などを演技する形での五輪入りは難しいと分かった。ならば、試合形式しか殘っていないことになる。ということで、われわれはどのような試合形式が中國武術(shù)の奧深さを伝え、また、中國の儀禮文化や倫理文化を表現(xiàn)できるかについて、じっくりと考えねばならない。時間と努力を要する作業(yè)が必要ということになる。（構(gòu)成 / 如月隼人）