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「可愛い子には旅をさせよ」。これは必ずしも実際に旅をさせろということでなくて、子供を甘やかさずに、世間での辛さや苦しみなどを経験させろという意味なのであろうが、文字通り旅をさせるというのも大事である。
いよいよ夏休みのシーズン。世界各地や日本でのコロナの感染狀況は、今なお収束に至ってはいないが、行動制限は大幅に緩和されてきており、今夏は、久しぶりに國內(nèi)あるいは海外へのトラベルを計畫しておられる方も多いのではないだろうか。
「可愛い子には旅をさせよ」という。これは必ずしも実際に旅をさせろということでなくて、子供を甘やかさずに、世間での辛さや苦しみなどを経験させろという意味なのであろうが、文字通り旅をさせるというのも大事である。旅をすると、様々な新しい事象を発見するだけでなく、自分自身の來し方を振り返ってみて、相対的に比較考慮することができる。世界中の國々を訪れた結果、母國たる日本の良さと欠點がよく分かるようになったという人は多いであろう。英國の詩人ラドヤード?キップリングの名言のひとつに、「イングランドしか知らないで、イングランドの何を知っていると言えるのか」というのがある。
フランス人の多くは、夏の長いバカンスにフランスの國內(nèi)を移動すると言われる。南仏に素晴らしい海岸やリゾート地があって、フランス語を話して過ごせるし、料理もおいしい、そして何よりも安くつくからだ。それに比べ、ドイツ人やイギリス人は、國の外へ旅行する人が多い。その方がおいしい料理にありつけるからだろうか。
データを見ると、國外への旅行者の數(shù)では、コロナ禍が始まる前の2019年、最も多かったのが米國で、行き先は、メキシコ、カナダ、イタリアなどだった。第2位はやっぱりドイツで、3位が英國だった。続いて4位がフランスで、その次の5位が日本。日本人の行き先は、米國、中國本土、臺灣などだった(マスターカード社の調査による)。
長引くコロナ禍は、このような國際観光地図を塗り替えるだろう。特に、日本の順位が落ちそうである。日本人の國民性が、他の國に比べて、相當慎重であるからだ。ワクチン接種後、數(shù)か月以內(nèi)に何をするかという、グローバル?マーケテイング?リサーチ會社イプソスのアンケートに、フランス、イタリア、スペイン、メキシコなどは、多數(shù)がワクチン普及國への海外旅行を挙げているのに対し、日本は30パーセント未満しか海外旅行を挙げていない。また、博報堂の原田曜平氏によれば、日本の若者の多くは地元志向が強く、自宅から半徑5キロメートル以遠には出たくないという。若者の戀人が「今年の夏はハワイに行かない?」と誘っても、「行っても面白くないよ。スマホを見れば全部わかるよ」といった返事が來るらしい。
また、內(nèi)閣府の2018年度の調査によれば、日本の若者(13歳から29歳までの男女)の多くは、おとなしく、家族との生活を中心とした、ささやかな身の回りの幸せを求めて生きることを望んでいる。自分が40歳くらいになったときに、出世しているとか、金持ちになっているとか、世界で活躍していると思う人は、極めて少ない。特に、世界で活躍していると思う日本の若者の割合は、たかだか14パーセントでしかなく、米、英、スエーデンやドイツ、韓國などと比べてはるかに低い。世のため、人のために、緊褌(きんこん)一番世界中を勇躍して、大きなことをやってのけてやろうと夢見る日本の若者は、なぜこんなにも少ないのだろうか?
われわれ日本人の多くは、歐米の人々と比べて、リスクをとらない傾向が強いと思われる。最近、厚生労働省が、屋外では人との距離(2メートル以上を目安)を確保できる場合や、距離が確保できなくても會話をほとんど行わない場合は、マスクを著用する必要はないとのガイドラインを出したのに、今なお、街で見かける人々のほとんどがマスクを外していない。このような日本人の慎重さに引き比べ、歐米の人々は、元気があるというか、無謀というか、まだまだ感染者數(shù)は日本よりもはるかに多いのに、マスクをしている人はほとんどいなくなっている。ポール?マッカートニーの最近のコンサートや、サッカーの観客をテレビで見る限り、誰もマスクをしていない。7月2日付の日経新聞によれば、夏休みシーズンが到來した米國で、旅行?レジャー需要が高まりを見せている。インフレで物価が上がるなかでも、新型コロナウイルス下で外出できなかった人々の「リベンジ消費」が旺盛だからという。
これは、歐米では、もう新型コロナは、インフルエンザ並みになったと考える人が多いからだろうか。マスク文化の違いもあるが、車の來ない橫斷歩道では赤信號でもわたるリスク許容度の大きさの違いからなのだろうか。しかし、日本でも、時事ドットコムニュースによれば、先般兇弾に倒れた安倍元首相も、今年5月の初めに、新型コロナウイルスの感染法上の取り扱いに関して、現(xiàn)行の「2類相當」から、季節(jié)性インフルエンザと同様の「5類」に引き下げることを検討するよう訴えていた。同様のことは、新型コロナ禍のかなり早い段階から、世界健康リスクマネジメントセンター國際顧問の唐木英明東京大學名譽教授も主張している。厚労省には、新型コロナとインフルエンザとの間で、感染リスクや死亡率等について、どれほどの違いがあるのか、わかりやすく説明してほしいものだ。
コロナ禍とウクライナ危機は、國際秩序の崩壊、エネルギー危機、食料危機、地球溫暖化などといった問題を一層深刻化させつつある。少子高齢化が進み、エネルギー自給率が極端に低く、食料自給率も減少といった難題を抱えたわが國だが、最近とみに、日本は課題先進國であって、その経験から世界は學べることが多いとする論調(例えば、エコノミスト誌の昨年12月11日付の日本特集)や識者の発言が増えている。SDGsの17目標のうちでも、長壽、健康、生物多様性、循環(huán)型社會、公害対策、廃棄物処理、自然災害対策、國土保全、交通対策など、日本が自らの経験と知見を駆使して、世界に貢獻できる分野は多い。
このようなグローバルな課題に果敢に挑戦するためには、特に日本の若い人たちが、いくら快適だとはいえ、この狹い日本の國內(nèi)に閉じこもっていてはいけない。海外留學をしたいと思う若者がたかだか3割、海外で働いてみたいと思わない新入社員の割合が6割というのは、先が思いやられる。ウクライナ戦爭以前の2021年の世界価値観調査では、もし戦爭が起こったら、國のために戦うかという質問に、ベトナム、ノルウエー、インドネシアでは70%以上が「はい」と応えているのに対し、日本では「はい」がなんと、わずか13%でしかない。ロシアのウクライナ侵攻が続く現(xiàn)在、日本のこの數(shù)字がもっと高くなっていることを真に期待したい。
日本の若者たちには、まず、世界を知り、世界の課題を知ってもらいたい。これはオンラインではなく、実際に世界をトラベルして、肌で感じて學ぶしかない。これからの世界は、不確実で、不透明で、曖昧模糊とした狀態(tài)が続くであろう。その際に大事なのは、「多様性(ダイバーシティ)を受け入れること」、「柔軟で、既存のルールに縛られないプラグマティックな対応ができること」、そして、「ある程度のリスクを許容すること」が大事ではなかろうか。
多様性については、多民族國家のアメリカ、スイス、マレイシアや他の東南アジア諸國などから學ぶことが多くある。柔軟性については、なんといってもイギリスのプラグマティズムであるが、これもインドや東南アジア諸國から學ぶところが多い。リスクの許容性は、米英などのアングロサクソン諸國、インド、ラテン諸國などから學べる。他方で、日本と共通の美意識を持つフランスやイタリア、謙譲心が日本と共通の北歐諸國やお隣の韓國、日本以上におもてなしの心が通う臺灣、イタリア、ブラジルなどと、個人レベルで大いに協(xié)調と協(xié)力の幅を広げることができるだろう。ただし、スマホやズームでは無理がある。実際にトラベルして、現(xiàn)地の様子を観察し、人々と交流してこそ、學び、教え、協(xié)力する関係が生まれる。
ようやく、海外にトラベルできる時期が戻ってきた。しかし、警戒しないと、近い將來再び新型感染癥や政治的危機が現(xiàn)れて、海外に出たくても出られない事態(tài)が再発するかもしれない。周りの狀況に十分慎重に注意を払いつつも、出るなら、今でしょ。
■筆者プロフィール:赤阪清隆
公益財団法人ニッポンドットコム理事長。京都大學、ケンブリッジ大學卒。外務省國際社會協(xié)力部審議官ほか。経済協(xié)力開発機構(OECD)事務次長、國連事務次長、フォーリン?プレスセンター理事長等を歴任。2022年6月から現(xiàn)職。
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