<コラム>トンデモ抗日ドラマのルーツ『人奶魔巣』(1989)

巖田宇伯    2019年8月22日(木) 23時10分

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2019年度の作品でなにかトンデモな抗日ドラマはないものかと、百度を漁っていたら、80年代の映畫にブチ當(dāng)たった。

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●マニア歓喜か???

その他の寫真

以前、こちらに寄稿した通り、新作抗日ドラマの情報収集に苦労している。2019年度の作品でなにかトンデモな抗日ドラマはないものかと、百度を漁っていたら、80年代の映畫にブチ當(dāng)たった。検索キーワードは忘れてしまったが、「抗日劇」に「最燗的」や「奇吧」など良からぬワードを組み合わせて出てきた結(jié)果が『人奶魔巣』という作品だ。中國語で奶というのはミルク、またはオッパイ本體のこと、「人奶」で「母乳」、「奶奶」と二つ合わせるとなぜか「おばあちゃん」という意味になる。

古いマイナー映畫なので、有名作品に比べ、あらすじや出演者の情報はほとんどないが、どうやら日本軍が中國女性を乳牛替わりに飼育するというようなことが書いてある。すでにこの段階でアタマの中は「???」と混亂してきた。ポンコツレーダーが異様に発達した筆者なので、これは大金脈を掘り當(dāng)てたと思い、ワクワクしながらさっそく鑑賞してみた。(畫像1 『人奶魔巣』VCDパッケージ)

●「87年商業(yè)片熱潮」

この映畫の紹介をする前に、いわゆる「87年商業(yè)片熱潮」について説明したいと思う?!干虡I(yè)片」というのは商業(yè)映畫、つまり金もうけが目的の映畫である。それまで「主旋律」、「蕓術(shù)」といった作品ばかりの中國映畫界において、80年代に入ると改革開放の波で映畫界も興行というものをしっかり意識しないと生き殘れない時代となった。「主旋律」映畫というのはいわゆる「紅色」、共産映畫だ。

1980年代初頭より『珊瑚島上的死光』、『銀蛇謀殺案』といった娯楽に振った作品が人気を博し、大衆(zhòng)にとってつまらない「主旋律」映畫とベクトルが全く違う「商業(yè)」映畫はまたたくまにスクリーンを席巻した。1987年には『京都球俠』『二子開店』『最後的瘋狂』といった人気作品も多數(shù)登場し大ブームを迎える。翌年1988年における「商業(yè)片」の割合は60%、1989年には75%にまでに急成長したほどの勢いであった。(畫像2『京都球俠』)

こういった勢いのある時には「時代のあだ花」というカルト作品が登場するのは世界の定理。そのなかで登場したのが本作『人(女乃)魔巣』である。

この作品、制作したのは四川省の峨眉電影廠だが、最後のクレジットにあるように実際のスタッフは音像発行部という部門で、もともとはテレビ映畫を意識して制作された模様。なので途中00:48:15あたりで「上集完」のテロップが入る。実際テレビ放映されたかどうか知りたいところだ。

●中國の掲示板でも議論

さすがに近年の日本兵を手で引き裂く『抗日奇?zhèn)b』(2011)ほどネタにされているわけではないが、いわゆる「抗日神劇」の「鼻祖」(元祖)という指摘が多い。その理由は當(dāng)代武俠ドラマ風(fēng)の功夫アクション、ことあるごとに火薬を使った爆発、大げさなスタントマンの吹っ飛び具合といった現(xiàn)代の抗日ドラマでおなじみの表現(xiàn)が早くも1989年時點で採用されていることがあげられる。こういった映像表現(xiàn)は當(dāng)然のことながら、肝心の腳本が荒唐無稽な設(shè)定であることに加え、衣裝や道具類は時代考証を無視しているという、トンデモ抗日ドラマの王道を行く要素がもりだくさんなのだ。

このようなツッコミどころ満載の作品を中國のネット民が放っておくはずはなく、真面目な映畫論も交え掲示板で議論したり、はたまたMAD動畫を作成し動畫サイトにアップしたりとこの作品を楽しんでいるようだ。(畫像3 MAD解説動畫)

また、主演女優(yōu)の東方聞櫻は當(dāng)時の中央電視臺ドラマ『紅樓夢』にも出演していたそれなりに有名な女優(yōu)。なぜこのような作品に出演したのか、掲示板に質(zhì)問するネット民もいる。いずれにせよ古いうえ、B級作品なので関係者インタビューの記録があるわけでなく、かなり謎のある作品のため、この先も語り継がれるのは間違いない。

●その荒唐無稽なストーリーをかんたんに紹介

出産直後の女性が日本軍に連れ去られるという事件が各地で起こっていた。そんなとき、明らかに乗車定員オーバーのサイドカーで連行されている中國女性を救出のため、遊撃隊長の左林燕(女)はムチャクチャ機関銃を撃ちまくる。その後、日本軍將校を捕まえ、母乳の瓶(巨大)を発見する。なぜか突然サムライが登場し、遊撃隊とバトルもなくサイドカーに乗ってどこかへ行ってしまう。(畫像4)

日本軍の基地には続々と中國人若ママが集められたうえ、看守のデブ女やサムライによる拷問や暴行が行われ、血が出るまで搾乳されていた。地下黨員の王先生は黒田司令官や鈴木博士に近づき、日本軍の目的を探る。今風(fēng)ぴっちりスキニーパンツでキメた偵察中の左隊長はサムライに捕まりそうになるも王先生に助けられ、一緒に日本軍の秘密を探り始める。(畫像5)

日本軍基地で看護師募集となり、左隊長が潛入することになるが、最初の面接であっさり正體がバレて捕まり、拷問を受ける。さらには母乳促進剤を注射され搾乳されそうになるが、看護師(地下黨員)の機転で難を逃れる。

王先生は鈴木博士をおびき出すと同時に、遊撃隊のスパイのあぶり出しに成功、遊撃隊の鉄妹(女)は鈴木博士の元愛人で日本人だったのだ。そして、なぜかいきなり和服姿になり、緋牡丹博徒のようにもろ肌脫いで鉄妹は切腹。(畫像6)

王先生は鈴木博士から恐ろしい日本軍の「X計畫」の目的を聞かされることとなる?!竂計畫」の前段階として中國の若ママを攫い、乳牛の代わりに母乳工場で搾乳、その母乳から成分を抽出し、粉ミルクに混ぜ日本の子供たちに飲ませるという、全く効率や生産性を無視したものだ。そして、「X計畫」の最終目的は、母乳粉ミルクで日本の子供たちを育て、全ての民族を超えたユニバーサルソルジャーのようなスーパー人間を作り上げることだというのだ?!竂計畫」の真実を知った王先生と遊撃隊は母乳工場の破壊と若ママ救出のため、日本軍司令部に向かうのであった?!?/p>

●「ゲシュタポ収容所」モンド映畫を思い出した

この映畫、鑑賞しているときもアタマがクラクラしたのだが、前段のあらすじを執(zhí)筆している最中も、自分で何を書いているか分からなくなりアタマがおかしくなりそうだった(笑)。そのとき思い出したのが、お色気、殘虐シーン満載のナチスの強制収容所を舞臺とした「ゲシュタポ収容所」モノ。そのほとんどはポンチ西部劇「マカロニウエスタン」を生み出したイタリア映畫。殘虐なナチス將校なのに話し言葉はイタリア語というズッコケぶりで、カルト人気を誇る作品ジャンルだ。(英語吹き替え版もあるので心配なくw)

このゲシュタポ収容所映畫、1960年代末期から70年代にかけ、當(dāng)時、粗製亂造の勢いで多數(shù)制作された?!喝四棠z』に登場する看守のデブ女は有名な『イルザ ナチ女収容所 悪魔の生體実験』(1977)に登場するイルザ所長のオマージュではないかと思うほど。拷問シーンや暴力シーンも従來の中國「主旋律」映畫とは桁違いの殘虐性のため、年代的に「ゲシュタポ収容所」映畫を監(jiān)督が參考にした可能性があるかもしれないと思わせるぐらい、當(dāng)時の中國映畫としてはショッキングなシーンが登場する。「ゲシュタポ収容所」映畫を中國的に解釈した作品と考えればスッキリと腹に落ちる。(畫像7)

數(shù)多くあるイタリア映畫の「ゲシュタポ収容所」作品と『人奶魔巣』を見比べ、パクリポイントを発見するのもおもしろそうだ。この作品、中國の大手動畫サイト、YouTubeなどにアップロードされているが、畫質(zhì)が悪いものや、録畫に失敗したのか動きがおかしいものがあるのでご注意を。

■筆者プロフィール:巖田宇伯

1963年生まれ。景徳鎮(zhèn)と姉妹都市の愛知県瀬戸市在住。前職は社內(nèi)SE、IT企畫、IT基盤の整備を長年にわたり擔(dān)當(dāng)。中國出張中に出會った抗日ドラマの魅力にハマり、我流の中國語學(xué)習(xí)の教材として抗日作品をはじめとする中國ドラマを鑑賞。趣味としてブログを數(shù)年書き溜めた結(jié)果、出版社の目に留まり『中國抗日ドラマ読本』を上梓。なぜか日本よりも中國で話題となり本人も困惑。ブログ、ツイッターで中國ドラマやその周辺に関する情報を発信中。

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